ヤマトインターナショナルが新しく手がけるEC向け新ブランド「CITERA(シテラ)」に注目したいと思います。
ヤマトインターナショナルといえば、ロングセラーのクロコダイルやアウトドアテイストのエーグルなどのブランドを国内実店舗で数多く運営しています。同社がなぜEC特化ブランドを作ったのか、今後の展開など、ヤマト インターナショナル株式会社の長尾さんにお話を伺いました。
—
Q1. なぜ実店舗を持たないEC特化のブランドを作ろうと考えたのですか?
「ご存知の通りファッション関連のみならずECは好調です。業界としても各社自社ECにも注力しており、年々流通額が上がっています。そして、ここ数年出店拡大をベースとしたファッションビジネス戦略の限界みたいなものを感じていました。実際オーバーストアによる撤退や閉鎖と昨今の日本はもとより世界各国でも起こっております。店舗は勿論必要ですし、無くならないと思いますが、直営店舗を作るのも維持するのも非常にコストがかかります。
我々は投資の軸を出店というハードへの投資からWEBマーケティングというソフトの投資へと転換し、ヤマト インターナショナルの新規事業として、ECに特化したブランドCITERAを開始することにしました。既に海外ではECに特化したブランドや業態がいくつも誕生しており、小売業の今迄の歴史からみてもやがて日本でもこのような業態が生まれるだろうとも考えました。ですので、この事業は当社としてもチャレンジの領域ですが、今後のファッションビジネスを展開する上で新たなECのノウハウは必須であり、中長期的観点からも社内にこのノウハウを作らなければならないと考え、スタートしました。」
Q2. アウトドアテイスト、かつメンズブランドを選択した理由
「今から2年前、まずECのみでスタートするという事だけ決めて座組や戦略、社内スタッフィング等を考え、どの様なブランドにするかは最後に決めました。その頃出張でアメリカに行ったのですがファッションマーケットは面白い兆しがありました。
アスレジャーという言葉は、ご存知でしょうか?アスレチック(運動競技)とレジャー(余暇)を組み合わせた造語で、米国を中心にはじまりました。ナイキやアディダスなどのスポーツブランドが業績好調の背景にもなっていて、機能性素材やスポーツテイストカジュアルが上手く日常のファッションシーンとリンクしていました。この流れは一過性のトレンドというよりは今後カジュアルファッションとして当たり前の様に浸透するのではないかと思いました。
また特に飛行機など移動するシーンにおいても三種の神器の様にアウトドアブランドのアウターを着てインナーにスウェット、そしてディバックを背負っているのが印象的でした。このようなメンズアイテムに特化すればシャツやジャケットよりもECサイトにおいてでも比較的サイズ感もわかりやすく、かつレディースのように多数の品番や日本独特のファッションではなく、アイテム的にも万国共通なら将来海外展開も可能かもしれないと思いました。そして、弊社の強みは何か?長年、エーグルなどのアウトドアブランドで使用している機能性ハイテク素材を扱ってきた経験値があり、これこそが資産でもありました。この機能性ハイテク素材を使い、比較的ファッション感度と可処分所得の高いアクティブな層をコアターゲットにしたブランドにすることを決めました。そして現CITERAディレクター陣にお声を掛け、1年の準備期間を経てスタートしました。」
BA-TSU ART GALLERYでのスペシャル・リミテッド・ストア
Q3. ブランド開始後の手応えはどうですか?
「9月1日、サイトを公開してブランドローンチし、翌日の9月2日〜4日までの3日間限定ショップを展開しました。限定ショップでは、当日商品を持ち帰ることはできず、実際に商品を見て、気に入った商品はタグのQRコードをスマホで読み取り購入する仕組みを取り入れました。注文した商品はECサイトから届くようにして、ショールーミングショップとしての可能性にもブランド開始早々からトライしました。」
CITERA at VOGUE Fashion’s Night Out Event” Apple 表参道 (c)FASHIONSNAP
9月10日のFASHION’S NIGHT OUT(ファッションズナイトアウト)では、アップル表参道でトークイベントを開催、約200名の方に来場頂き、同タイミングでアプリもリリースしました。
このようにブランド立ち上げから、様々な仕掛けを立て続けに行うことでFashionsnap.com、Ring of Colour(リングオブカラー)、HOUYHNHNM(フイナム)、Honeyee.com(ハニカム)、HYPEBEAST(ハイプビースト)など
デジタルファッションウェブ媒体様に多数取り上げて頂くことが出来、そのお陰でFacebookやInstagramのフォロワー数やアプリのダウンロード、セッション数にも繋がっています。もちろんWEB広告も行ないますが、基本リマーケティングは控えながら先ずはサイトのコンテンツやメルマガなどを丁寧かつスピーディーなアップデートに注力しています。」
“CITERA” in Potluck at EDIFICE SHINJUKU (c)FASHIONSNAP
Q4. 今後の展開
「ファーストシーズンの今季は約30型のアイテムをリリースしました。これはファッションブランドとしては、とても少ない数です。主にはバッグ、アウター、スウェットと今後も大量の品番をリリースしていく予定はありません。流行を追うというよりは、定番のマイナーアップデートやリアリティのある機能性とミニマムなデザインで訴求していきたいと今は考えています。この辺りはアウトドアブランドの戦略と少し似ているかも知れません。また期中のセールは行いません。今までのアパレル業界のように、次シーズン前にセール、福袋と値引き中心の販売はしないということです。
現在のファッション小売のセオリーとは違うかも知れませんが、地道に頑張ります。
またハイプビーストなどに掲載された関係で、アジア圏からの問い合わせも増えており、将来的には海外での展開も視野に入れています。
ECのみですので実店舗はありませんが、実際に手に取って商品を見てみたいという声をたくさん頂いています。ですので今後も現在セレクトショップ様等で行っているようなショップインショップやポップアップショップなど、様々な形態をとって今後も展開していければと考えております。
こちらはECサイトで購入されたお客様に感謝の気持ちとして商品と同梱しているステッカーセットです。
SNSが普及したことにより、リアル店舗とはまた違ったお客様とのコミュニケーションが生まれ、自然なレコメンデーションにも繋がっています。メルマガやサイトコンテンツの内容も徐々にボリュームを付加していますがECの購買体験にもストーリーが大切になった時代だと考えているからです。
お得に、早く、効率よく買うのなら大手のECサイトだと思います。でもその中でCITERAを選んで頂いたお客様に少しでも喜んで頂けるようブランドを大切に育てて行きたいと考えています。サイト作りにしても、メールマガジンにしても、全てをブランディングとECサイトとしてのバランスに気を遣い、出来る限り丁寧に作っていこうとチーム内で話しております。駆け出しのブランドではありますがぜひ今後の展開にもご期待ください。」(長尾さん)
—
今回は新ブランドCITERAに取材をさせて頂きました。
ノームコアに続くファッショントレンドとしてのアスレジャーに焦点を当てたアイテムラインナップからも
目を離せませんが、リアル店舗を中心にマーケティングを行ってきたアパレルブランドの既存の考えを
改めさせるデジタルプロモーション戦略に面白さをとても感じました。
ブランド設立当初からも、スマホアプリもきちんと対応しているブランドは多くありません。
ファッションとデジタルの関係性を表した現代のブランドで、今後定着していくだろうと確信しています。
—
CITERA公式サイト www.citera.jp
プロフィール:
ヤマトインターナショナル株式会社
執行役員 マーケティングコミュニケーション部長
長尾 享諭(ながお たかつぐ)
2015年、ヤマト インターナショナル株式会社入社。2016年、執行役員に就任。
CITERAをはじめ新規事業、M&A、同社EC関連業務を統括。