顧客、店舗、ビジネス、すべての課題を解決するアプリ。メガネスーパー川添氏が見るオムニチャネルの未来とは

技術の進歩とともにスマートフォンアプリの機能は豊富になり、購買行動などすべてがアプリで完結できるものも多く登場している。そのような中、あえて「コンタクトレンズを注文する」という単機能に絞り込んだアプリを提供したのがメガネスーパーだ。発表当日は同社の株価にも影響を与えたといわれる「コンタクトかんたん注文アプリ」。その仕掛け人でありEC業界に多くの風を吹き込んだ、担当者の川添隆氏にお話を伺った。

売上2倍が至上命令。突然のEC担当者任命

– 川添さんのご経歴を教えてください。

大学では建築を学んでいました。しかし業界の閉塞感を目の当たりにし、もう1つの大きな関心事であったアパレル業界に就職しました。最初の会社は、総合アパレルで販売や営業アシスタントなどを経験しました。その後、ネットビジネスにも興味を持つようになり、ファッションECのベンチャー企業でささげ業務からメルマガ・企画など何でもやりました。そして前職のレディースアパレル企業へEC担当として転職します。その会社では、1年半後に役職も部長代理に大抜擢してもらい、その代わり売上は2倍にしてほしい、その代りあらゆる武器を渡す。そして、全社の利益目標が達成できなければ給料は1円も上げないという厳命でしたね。

しかし、内心はラッキーだと思っていました。その会社は優良顧客を多く抱えていたのに、まったく活かしていなかった。任せてくれればいくらでもできると考えていましたから。やるからには日本一のアパレルECチームを作ろうと、がむしゃらに突き進みました。LINE@において、1カ月半で友だち1万人の上限に達したのはアパレル業界で我々が最速でした。

結果的に、その期の後半は2倍にできましたし、EC事業を1年半で2倍以上に成長させました。公約を守ったことになりましたね。
訳あって、その会社の社長がメガネスーパーの企業再生に取り組むこととなり、私もぜひ一緒に取り組みたいと今に至ります。

アプリを作ったのは店舗のため。メガネスーパーが見つめるオムニチャネル戦略とは

– 「コンタクトかんたん注文アプリ」の開発に至った経緯は?

アプリの構想は2016年の2月頃からですが、アイケアカンパニーとしてのオムニチャネルの構想自体は2015年の11月頃から持っていました。ECの売上が伸び、利用者が増えてきたので、オムニチャネルの推進が必要になってきたと考えていました。

実は、当社ECの売上のほとんどはコンタクトレンズです。メガネをECで売ろうとしてもなかなか難しい。さまざまな施策を試していますが、ECで容易に購入できる商品ではありません。我々の強み出る店舗と、これまで投資をしてきたECの双方を活かすには、双方で実績があるコンタクトレンズの方がゴールイメージを作りやすい、という発想から生まれたのが今回のアプリになります。

それと、今回のアプリはカメラのキタムラさんの影響が強くあります。最初は私も、なぜキタムラがアプリを作るのかと不思議に思っていました。今時写真の印刷でお店に行く必要性ってあるのかなと。しかし、お客様は店頭の専門家に聞きたいみたいなんですよね。どういう仕上がりがベストか、フォトブックにするにはどんな構成にするのかなどを、プロに相談したいんです。だからお店に来る。だけど、集中的なニーズの時は店舗のリソースが不足する。それを効率化するためにアプリがあると。
それを聞いた時、我々と非常に近いと感じたんです。メガネスーパーも、眼の健康寿命を延ばすための商品やサービスの提案をして、末永くお手伝いをする「アイケアカンパニー」という宣言をしています。そのため、眼の検査やヒアリングにはしっかりと時間をかけています。

とはいえ店舗スタッフの数は限られています。長時間を要するメガネの接客と、スピードが求められるコンタクトレンズ販売を限られた人数で両立させなければならない状況にあります。たとえばいつもと同じコンタクトレンズを買いに来ていただくお客様に関しては、その商品をかんたんに注文できて自宅などに配送してしまった方が、店舗側にとってもお客様にとっても嬉しい。正にキタムラさんと同じ課題だったのだと気づいたのです。

我々の一番の強みは、アイケア軸で複数の検査をできる技術をもち、お客様の状態に応じた最適なレンズやフレーム、またはコンタクトレンズをご提案ができるスタッフです。アプリをはじめとしたオムニチャネル戦略は、店舗にいる仲間の負担を軽減し、もっと活躍してもらうためにあるのです。

アプリで提供するのはユーザー体験。シンプルな機能に込められた思い

アプリ開発に至るまでの戦略、その思想を語ってくれた川添氏。ここからは、具体的なアプリの内容についての話題となった。

画像出典:メガネスーパー on iTunes

– 非常にシンプルなアプリですが、なぜこのような仕様に?

アプリを使ってどんなユーザー体験を提供できるかと考えた際、やはり前回買った商品を一発で買えるものがいいと思ったんです。むしろそれしかないと。自社ECでは、「前回購入した度数で注文」という選択肢があり、それを選択すると度数入力が不要です。この注文方法のご利用は多いですが、これまでのように、サイトにアクセスして、商品ページを見て、カートに入れて、注文するなんてプロセスはもうやりたくない。いつものやつください、これだけでいいだろうと。

その考え方を突き詰めていき、たどり着いたのがAmazonのダッシュボタンや1click注文でした。目指すべきUI・UXはここだと。

EC×アプリ。川添氏が見るOne to Oneな未来とは

ユーザーに与える体験を考慮して、自社の強みを最大限に引き出し、もちろんビジネス面にもポジティブな影響をもたらす。メガネスーパーのオムニチャネル戦略は、全方位への深い洞察に溢れた非常に緻密な作戦であった。

そんな川添氏に、最後に「ECとアプリ」の未来について伺うことにした。

– 「EC×アプリ」というテーマについて、何かお考えはありますか。

Yappliさんもアパレル系のクライアントさんが多いと思いますが、たとえば服のアイテムを単品でレコメンドするのではなく、その一歩手前の興味がありそうなコーディネートコンテンツを提案するみたいな形の方がいいのではと思っています。PARCOさんは、KPIを絞り、そこにAIを導入しているのはとても合理的だと捉えています。「コンタクトかんたん注文アプリ」も近いかもしれませんが、表示する情報を最適化し、お客様の体験をシンプルにするという概念ですね。

これからはOne to Oneの接客、ユーザーごとに異なる体験を提供していけるかがキーになってくると思いますが、それには圧倒的にアプリの方が適しているんじゃないでしょうか。One to Oneというのは、いわゆるメールの出し分けのような話だけではなく、今回我々がやっているような購入導線を一気に省く場合もあれば、コンテンツをたくさん見せるということも含めてです。「アプリとEC」という意味では、そういった方向に向かうのが健全なのかなと思っています。

ただ、アプリ開発は本当に大変です。開発そのものはもちろん、複数の関係者間の意思疎通だけでもコストがかかります。言った言わない、仕様の認識違い、何かが1つ変わるだけで考えなければいけないことがいくつも出てきたり。また、基本的な概念としてWEBはページ数を多くして1つ1つ遷移できますが、アプリは1つの機能に集約させるためにページ数を減らす必要があるので、とても頭をつかいます。

だからYappliさんの機能の豊富さには驚きましたよ。持ち上げる訳ではありませんが、アプリを通してやりたいことがそれほど明確でないとか、まずはスモールスタートで始めてみたいという場合、絶対にYappliを使った方がいい。これはもう自信を持って言えます。

プロフィール

株式会社メガネスーパー 店舗営業本部 デジタル・コマースグループ ジェネラルマネジャー
川添 隆

千葉大学デザイン工学科卒。総合アパレルで販売、営業アシスタントなどさまざまな業務を経験後、ネットビジネスを志しベンチャーへ。その後、2010年に前職に入社し、2011年からEC事業の責任者として業績を1年半で2倍に拡大。2013年より現職。メガネスーパーのEC事業、オムニチャネル推進、デジタルマーケティング、店舗支援を統括し、他社のEC事業支援にも従事。アドテック東京2015・2016にて公式スピーカー、News Picksのプロピッカー、各種セミナー・執筆務めるなど、情報発信も積極的に行っている。

メガネスーパー公式通販サイト:http://www.meganesuper.net/
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